寂しい光                 

 

 夕焼けが空を赤く染めたころ、CDウォークマンがあるのに気づいた。なかのCDはBz。 Bestの2枚目のほうだった。音を爆音にして聞いた。一人でいる孤独をまぎらわすのには、十分だった。Bestというだけあって、なんとなく知っている曲ばっかりだった。

  すごいきつい坂も口ずさみながら乗り越えていった。なんとなくまわりの景色から自分は山の中にいるのだと知らされた。こんな時でなければ景色を楽しむのだが・・・。天候はあまり良くならず、降ったりやんだりだった。あたりが暗くなってきた。自分は何のために走っているのだろう。疲労も限界に達してきた。どこまで走ればいいのだろう。どこまで走っても上り坂ばかり。終わりが見えない。何も考えられないまま、暫く走った。

 「こんにちは~!!」後ろから声がした。旅行中だろうか、車に乗った人たちに手を振られた。

  慌てて手を振りかえした。自分のことを地元民だと思ったのだろうか。少しいやだった。

  あの車なら、もしかしたら乗せてくれるかもしれない。もうはるか先の車を僕は追いかけた。もうあの車に頼るしかなかった。追いつくはずないのに、必死に走った。走った。とにかく走った。雨はざあざあ降っていた。そんなことはどうでも良かった。CDウォークマンもはずし、全速力で走った。もう届くはずがなかった。自分は一人だ。なぜこんなところにいるのか、友達は何をしているのだろう。恐い、恐い、恐い。 カミナリはすぐ近くに落ちていた。何度も何度も。髪をつたう雨で前が見えない。カミナリが恐くて目が開けない。水にぬれた服が重い。横を通る車にひかれそうだ。今まで気づかなかったこと、普段なんとも思わなかったことが、何かを合図にしたように、一斉に自分の意識の中に襲い掛かってきた。車はどんどん自分を抜かしていく。自分はなんて遅いのだろう。暗い、何も見えない。自転車のライトは目の前しか光らせない。さっき聞いていたBzの唄を歌うのが精一杯の恐れから逃げる手段だった。

 “かなえたまえ この願いかなえろよ”

  この部分を何度も何度も歌った。願い、自分の今の願いは何だろう。   生きること。生きたい、死にたくない。恐い、死ぬのが恐い。一人になるのが恐い。

  遠くに光を見つけた。トンネルの光だ。上空には高速道路が走っていた。なんと高く感じることか。力を振り絞った。本当に最後の力だった。トンネルの中にやっとの思いで入ることができた。僕の心の中にまだ、安心感は沸いてこない。もらったカロリーメイトを食べようとしたが、絶望のあまり食べる気にはなれなかった。しかもこれからの先も生きていくことを考えると残しておかなくてはいけない、と考えた。でも、心を落ち着かせるという意味と、お腹のことを考えて、無理やりにでも一袋食べることにした。食べながら座りこみ、これからのことを考えた。何をしても助かりたい。僕はトンネルの中で右手を上げ、親指を立てて、ヒッチハイクをした。以前にヒッチハイクをして広島まで行った経験があったからだ。(止まれ、頼む、止まってくれ)と僕は心の中で必死に叫んだが僕のために止まってくれる車はなかった。止まるはずなどない、第一もし、万が一止まったとしたら、事故が起きてしまう。こんな簡単なことすら考えられない程、僕の心は動転していたが、僕はひたすら手をあげた。しばらくして、覚悟を決めて、暗闇の中へ吸い込まれるようにして、飛び込んでいった。あいかわらずの土砂降りで、前が見えにくかった。今にして思えばそれはただ雨のせいではなく、自分の内から込み上げてくるなにかも、僕が前を見ることを邪魔していたかもしれない。側にあるガードレールはすごく低く、後ろから車が来るたびにドキッとさせられた。なぜなら、すぐ横に崖があり、その下は見て恐ろしくなるぐらいの川が、雨の音よりも大きく激しく流れていたからだ。後に聞いた話によると、普段その川はチョロチョロと流れているだけだと言うから、この日の雨のすごさがわかる。

  いくつかの上り坂と下り坂を越えて、うろ覚えながらも、静岡県の看板を見たのを覚えている。そこからすぐの所にある逆車線の方に一つの寂しい光を見つけた。まるでつぶれているような汚い工場、そして、その隣の小さな家。その近くまで行き、雨のしのげる場所を探した。家の窓が開いている事に気が付き、無意識の内に声が出ていた。

 「泊めてもらえないでしょうか?」


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