幕開け(少し遅めのプロローグ)       

 

  少年は何時間も寝ていた。よっぽど気持ちが良かったのだろう。少しこの小さな少年について、つまりは僕自身について話そうと思う。

  少年は幼き頃、いじめにあっていた。そんなにひどいものではなかったと思うが、絶望感と、孤独感を味わうには充分だった。何度も死のうとした。壁を殴ったり、頭をわざと何回も打ってみたり、自分を傷つける事ばかりしてきた。傷つくことには慣れていた。他人が傷つくぐらいならいっそ、自分が傷つこうではないか、そう思っていた。それ自身はそれ程辛いことではなかった。自分よりももっと傷ついた人を知っていたからだ。

  けれど、様々なことに「このままでいいのだろうか」、と疑問を持ち始めた時、決められたレールの上を歩くこと、成績のために自分に嘘をつくこと、いろんな人に反抗し始めた。

  無意識の内に何かに反抗することで、自分自身を確かめていたのだと思う。自分は傷ついている、と思っていたせいか、他人を傷付ける事にはなんの疑問も持たなかった。いや、正確に言えばあったのだがそれを押し込めていた。そして誰かを傷付けてばかりの生活が始まった。自分が悪いことはわかっていた。ただ、離れていく友や、悪事の世界、急に変わってしまった周りに頭が混乱していた。心の中にいつも寂しさを抱えながら、広い空に煙をふかしていた。

  まんびきも、けんかもお酒も、全てが心を虚しくさせるだけのものだった。

 

  誰もが同じように苦しみ生きて、人を傷付ける事で自分は傷付いていないと思う。

  当然のように傷付き、傷付け、悲しみも嘆きももう届かないものだと思っていた。こんな僕を誰か愛していてくれるのか、誰か僕のために泣いてくれるのか。

  何をしても空しく、何も変わらない日常、心はうまることなく一人、気がつけば今日も同じ。

  楽しみも知恵もいったい何になるのだろう、全てが空しく風を追うようなものだ。そう、全てが。

 

  全ての悪事がうまくいってしまう自分の心の中はいつも空っぽだった。自分の無力さを知った。後に作った詩にこんな詩がある。

(若々と繁っていた葉も枯れて落ち、地面を隠す。

長い冬を待ち、春の季節に花を咲かす。繰り返す日々の中で、僕は何を学ぶべきだろうか。

大きな木でも切り倒されることもある。

まして小さな僕が花を咲かすことなどできるのだろうか、

植物に水が必要なように僕にも愛を与えてくれ。)

  それから暴れることは少なくなった。少しずつ何かが変わりそうだった。

   ある朝、いつもよりなぜか2時間も早く起きてしまったことがある。やることがないので、ボーッとしていた。テレビをつけた時、偶然、自分の尊敬するバンドの解散を知った。泣いた。心の底から好きだったのだ。自分の憧れであり、唯一の心の支えを失ったのだ。その日から無理をしていつも笑うようにした。笑っていなければ、自分が壊れてしまいそうだったからだ。

  この時から今に至るまでいろんなことがあった。そのバンドのメンバーの死や、進路のこと、親とのこと、友達を失ったこと、親友とのけんか、友達が麻薬漬けにされてしまったこと、友達が強姦されてしまったこと。

  汚いのは自分だけではない、人間そのものが汚いんだ!!

  何を信じて、何を求めて歩けば心が楽になれるのだろう。

自分が発狂していることに気がついた。自分には止められない、自分で自分を遠くから見ることしかできなかった。自分がいるのかさえもわからなかった。吐き気がして、息をすることさえもままならなかった。周りが揺れているようだった。

  もう死にたい。

  もう楽になりたい。

  もし神がいて、自分を愛していてくれるのなら、自分の生まれた目的が互いに傷つけ合うということでなければ、“自分は死なない”何一ついらない。全てをかけて確かめよう。

  生きている理由が知りたい。

  そのかけは本当に生命をかけたものだった。もしこのかけに負けたら、自分は何一つ得ることなく死ぬことになる。

それでもかまわない。自分の最後を見よう。

  僕はドアを開いた、そして走り出した。暗闇の中へ、未だ見ぬ光を求めて。

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